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当院の抗菌薬治療方針について ―世界標準「AWaRe分類」に基づく適正使用の取り組み―

はじめに

当院の抗菌薬治療方針について ―世界標準「AWaRe分類」に基づく適正使用の取り組み―

風邪をひいて受診したのに抗菌薬(抗生物質)が処方されなかった、というご経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。「念のために」「早く治したいから」と抗菌薬を希望される患者さんも少なくありませんが、当院では、世界保健機関(WHO)が提唱する「AWaRe(アウェア)分類」という国際的な指針に基づき、抗菌薬を科学的根拠に基づいて適正に使用する方針を採っています。本稿では、その考え方と当院での具体的な取り組みについてご説明します。

抗菌薬が効かなくなる「薬剤耐性(AMR)」という問題

抗菌薬は、細菌による感染症の治療に欠かせない薬です。しかし、必要のない場面で使いすぎたり、不適切な量・期間で使用したりすると、細菌側がその薬に対する抵抗力(耐性)を身につけてしまいます。これを「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」と呼びます。

耐性を持った細菌(耐性菌)が増えると、これまで効いていた抗菌薬が効かなくなり、治療が難しくなります。世界的には、AMRによる死者数は年間100万人を超えるとの報告もあり、WHOは「今後、人類が直面する最大の健康危機の一つ」と警告しています。国内の研究機関の試算でも、対策を講じなければ将来的にAMRに関連する死亡者数が国内だけで年間数千人規模に達する可能性が指摘されており、決して海外だけの問題ではありません。

【注意】抗菌薬はウイルス性の風邪には効果がありません

日本では、耐性菌の主な原因の一つとして、風邪など本来抗菌薬が不要な場面での処方や、広域スペクトラム(多くの種類の菌に効く)の抗菌薬が安易に選ばれがちだったことが指摘されてきました。厚生労働省の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づき、当院でも抗菌薬の適正使用に取り組んでいます。

WHOの「AWaRe分類」とは

WHOは2017年、抗菌薬を効果・安全性・耐性化リスクの観点から3つのグループに分類する「AWaRe分類」を発表しました。これは世界中の医療機関が抗菌薬を適切に選択するための指針として広く採用されています。

分類グループ 位置づけ 特徴と選択基準
Access群 第一選択薬 耐性化リスクが比較的小さく、安全性・有効性が確立している薬剤。必要な菌を狙い撃ちし、常在菌への影響を抑えます。(例:アモキシシリン、セファレキシン)
Watch群 慎重選択薬 効果範囲が広く耐性化を引き起こしやすいため、より重篤な感染症やAccess群が使用できない場合に限定して推奨されます。(例:ニューキノロン系など)
Reserve群 最後の切り札 多剤耐性菌など他の抗菌薬が効かない重篤な感染症に対する最終選択肢。原則として専門医療機関・専門医のもと限定使用されます。

WHOは、外来診療で使用される抗菌薬の少なくとも60%以上をAccess群が占めることを国際目標として掲げています。当院でも、実際に処方する抗菌薬のうちAccess群が占める割合を意識しながら、日々の診療にあたっています。

当院の処方方針

当院では、このAWaRe分類の考え方を診療の基本方針として取り入れています。

1. まず、Access群の薬剤を第一選択とします

溶連菌による咽頭炎や副鼻腔炎、単純な膀胱炎、皮膚の感染症など、日常診療で頻繁に遭遇する感染症の多くは、Access群に分類される薬剤で十分に治療可能です。当院でも原因菌に応じて必要最小限の範囲で効く薬を基本処方とします。

2. Watch群は、明確な理由がある場合に限定します

非定型肺炎が疑われる場合や、ペニシリン系にアレルギーがある場合、あるいは他の治療で改善が乏しい場合など、臨床的根拠がある時に限り慎重に選択します。「念のため広く効く薬を」という安易な第一選択処方は行いません。

3. Reserve群は必要性を慎重に見極め、最小限にとどめます

Reserve群は多剤耐性菌など限定的な場面でのみ検討される薬剤です。安易な選択肢とせず、必要な場合は速やかに高次医療機関へご紹介し、専門的な体制のもとで治療を受けていただく方針としています。

具体的な取り組み例

「風邪では抗菌薬を出さない」というのも、この方針の一環です。風邪(急性上気道炎)の大部分はウイルスが原因であり、抗菌薬は効果がありません。症状や診察所見から細菌感染が強く疑われる場合にのみ、抗菌薬の使用を検討します。

投与期間についても、必要以上に長く出さないよう配慮しています。たとえば単純な膀胱炎であれば、ガイドラインに基づき3日間程度の短期間で十分な効果が得られる薬剤もあり、漫然と1週間分を処方するようなことは避けています。一方で、溶連菌による咽頭炎のように症状改善後も一定期間しっかり飲み切ることが重要なケースでは、きちんと日数分を服用いただくようご案内しています。

腎機能が低下した方・透析を受けている方への配慮

腎臓は多くの抗菌薬を体外へ排出する重要な役割を担っています。腎機能が低下している方や人工透析を受けている方では、通常量のまま服用すると体内に薬が蓄積し、副作用のリスクが高まることがあります。当院では、患者さんの腎機能(eGFRや血清クレアチニン値など)に応じて用量や投与間隔を個別に調整した処方を行っています。

また、透析カテーテルやシャントを介した感染症、あるいは糖尿病に伴う足病変の感染症など特殊なリスクがある場合は、外来での投薬にこだわらず、速やかに専門医療機関への紹介や入院加療をご案内することを基本方針としています。

方針の見直しについて

当院では、抗菌薬の使用方針を一度決めたら終わりにするのではなく、国内外の最新ガイドラインや添付文書の改訂情報、地域における薬剤耐性菌の動向などを踏まえ、継続的に内容を点検・更新しています。担当する医師によって方針がぶれることのないよう院内共有体制を整えております。

患者さんへのお願い

  • 風邪症状での抗菌薬希望について:ウイルス性の風邪への抗菌薬希望は耐性菌を増やす結果につながります。医師の判断にご理解をいただけますと幸いです。
  • 指示された日数は飲み切る:抗菌薬が処方された場合は、症状が良くなったと感じても指示された日数はきちんと飲み切ってください。中途半端な服用は耐性菌の原因になります。
  • 余り薬の使い回し禁止:以前に処方された抗菌薬が余っていても、自己判断で別の病気の時に使用したり他の方に譲ったりすることは絶対におやめください。
  • 副作用が疑われる場合:薬疹(発疹)などの副作用が疑われる症状が出た場合は、自己判断で対応せず速やかに当院へご連絡ください。

よくあるご質問(Q&A)

Q. 抗菌薬を出してもらえなかったのですが、大丈夫でしょうか。
A. 診察の結果、細菌感染ではなくウイルス性の風邪などと判断した場合、抗菌薬は処方いたしません。抗菌薬はウイルスには効果がなく、服用しても症状改善にはつながらない一方で、下痢などの副作用や耐性菌のリスクが生じるためです。症状を和らげるお薬や経過観察でのご案内が最も適切な治療です。
Q. いつも同じような症状で抗菌薬をもらっていたのに、今回はもらえませんでした。なぜですか。
A. 見た目の症状が似ていても、その原因はウイルスであったり細菌であったりとその時々で異なります。過去の処方は「そのときの状態」に対する判断であり、今回の診察では今回の症状・所見に基づいて必要性を判断しています。抗菌薬が不要と判断した場合も症状を和らげる治療は行いますので、数日間様子を見て改善が乏しければ再度ご相談ください。
Q. 抗菌薬を飲まないと治らない気がするのですが、大丈夫でしょうか。
A. 風邪などのウイルス性の症状は、抗菌薬を飲んでも飲まなくても自然に良くなるまでの期間はほとんど変わりません。当院では抗菌薬不要と判断した場合でも、症状を和らげるお薬の処方や、改善しない場合の具体的な受受診目安(発熱の程度や日数など)を必ずお伝えするようにしています。
Q. 以前はもっと強い薬・長い日数の薬が出ていた気がします。なぜ変わったのですか。
A. 医学的エビデンス(科学的根拠)は年々更新されており、以前の標準処方がその後の研究で「必要以上に広域・長期だった」と分かることは珍しくありません。当院では最新のガイドラインや国際指針(AWaRe分類など)に基づき、常に処方内容を見直しています。
Q. 出された抗菌薬が体質に合わず、発疹などの症状が出ました。どうすればよいですか。
A. 服用開始から数日以内に発疹(薬疹)、発熱、口内炎などが生じた場合は、自己判断で様子を見ずに速やかに服用を中止し、当院までご連絡ください。過去に薬で発疹が出たことがある方は必ず問診時にお申し出ください。
Q. 家族や透析施設など、他の医療機関にも自分の抗菌薬情報を伝えるべきですか。
A. 特に人工透析を受けている方や腎機能が低下している方は、お薬手帳を活用し、透析施設や他の受診先とも情報を共有していただくことで、重複投与や不適切な用量による副作用を防ぐことができます。

おわりに

抗菌薬の適正使用は、目の前の患者さんを守るだけでなく、将来にわたって抗菌薬が効く社会を維持していくための医療機関としての責任であると当院は考えています。WHOのAWaRe分類という世界標準の枠組みを診療の指針としながら、今後も科学的根拠に基づいた、患者さん一人ひとりに適した抗菌薬治療を提供してまいらいま。ご不明な点やご不安な点があれば、どうぞ遠慮なく診察時にご相談ください。

A. 医学的なエビデンス(科学的根拠)は年々更新されており、「以前は当たり前だった処方」が、その後の研究で「必要以上に広域・長期だった」と分かることは珍しくありません。当院では、最新のガイドラインや国際的な指針(AWaRe分類など)に基づき、常に処方内容を見直しています。

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